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鳥取地方裁判所 昭和33年(レ)42号 判決

控訴人 船越作一郎

被控訴人 河原熊野 外一名

主文

原判決中控訴人の被控訴人河原正子に対する部分を取り消す。

被控訴人河原正子は米子市紺屋町五七番地家屋番号同町四六番木造瓦葺平屋建居宅一棟建坪四坪六号五勺の建物のうち、同町五九番宅地二九坪九合四勺のうち東北一一尺西南七尺六寸五分の矩形部分の土地(別紙図面記載の斜線部分)上に存在する建物部分を収去して右土地を明渡し且つ金二、六七〇円ならびに昭和三一年一二月一日から右土地明渡済に至るまで一ケ月金五七円の割合による金員を支払え。

被控訴人河原熊野に対する控訴を棄却する。

訴訟費用中控訴人と被控訴人河原正子との間においては第一、二審を通じ控訴人に生じた費用を二分し、その一を被控訴人河原正子の負担とし、その余を各自負担とし、被控訴人河原熊野に対する控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人等は控訴人に対し米子市紺屋町五七番地家屋番号同町四六番木造瓦葺平屋建居宅一棟建坪四坪六合五勺の建物(以上本件建物と称する)のうち、同町五九番宅地二九坪九合四勺のうち東北一一尺、西南七尺六寸五分の矩形部分(別紙目録記載の斜線部分)の地上に存在する建物部分を収去して右土地を明渡し、且つ連帯して金二、六七〇円ならびに昭和三一年一二月一日から右土地明渡済に至るまで一ケ月金五七円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の連帯負担とする。」との判決を求め、被控訴人河原熊野は「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴人の方で、亡河原林太郎が生前清山庚一郎に前記建物を売り渡したとの被控訴人熊野の主張はこれを否認する。仮に右売渡がなされたものとしても、前記建物はもともと未登記のもので買主清山においても未だ所有権取得登記を経由していない。ところで、不動産に関する物権の得喪変更につき登記がない限り、これを以て第三者に対抗し得ないこと民法第一七七条の明定するところであり、右法条にいわゆる第三者とは、当事者およびその包括承継人を除いたもので登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有するものを指称するものというべきであるところ、控訴人は土地の所有者として地上建物の所有者である被控訴人等に対し不法占有を理由として土地の占有の排除を求めるものであるから、右地上建物の登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有するものである。したがつて被控訴人等は、前記建物の所有権が売買により河原林太郎から清山に移転した旨の登記がない以上右所有権移転を以て控訴人に対抗できない筋合となるから、右所有権移転の事実は控訴人の被控訴人等に対する請求を排斥する事由となし得ない、と述べ、被控訴人熊野の方で、林太郎が前記建物を清山に売り渡したのは一三年前で、現在右清山において右建物を使用占有している、と述べたほか原判決摘示事実のとおりであるからここにこれを引用する。

被控訴人正子は適式の呼出を受けながら原審ならびに当審における各口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面をも提出しなかつた。

証拠として控訴代理人の方で甲第一号証から第三号証までを提出し、原審証人関重之の証言(一、二回)原審における検証の結果(一、二回)を援用し、「乙第一号証の成立は知らない。」と述べ、被控訴人熊野の方で、乙第一号証を提出し、当審証人清山庚一郎の証言を援用し「甲第一号証の成立は知らないが、その余の甲号各証の成立は認める。」と述べた。

理由

まず職権により本訴が必要的共同訴訟であるかどうかについて検討する。

控訴人の本訴請求は土地の所有者である控訴人から地上の建物の共同相続人であるとして被控訴人等に対し不法に土地を占有することを理由に右建物の収去と土地の明渡および土地の賃料相当額の損害金の支払を求めるものであるが、右請求中建物の収去、土地の明渡を求める部分については、被控訴人両名が各自その一部づつを履行するというようなことは到底考えられないところであつて、その全部を不可分的に履行する外はない。そうだとすると右収去、明渡は性質上一種の不可分債務と見ることができよう。そうして不可分債務については債権者は連帯債務者と同様債務者の一人に対して全部の履行を請求することができるし、債務者全員を相手方として履行の請求をした場合においても、その結論が債務者全員に対して区々であつてはならない法律上の要請はないから、この部分の訴訟を必要的共同訴訟だとしなければならないことはない。また、被控訴人等に対し損害金の連帯支払を求める部分については、それが必要的共同訴訟でないことここに多言を要しない。もつとも収去、明渡を求める部分の請求については、控訴人の主張によると収去を求める建物が共同相続財産であるところから、訴訟追行権は被控訴人等の合有に属する場合に該当するとして、必要的共同訴訟に属するとする見解が立ちうる余地があろうし、また共同相続人である被控訴人両名を相手にした以上は、論理上右両名につき結論がまちまちであつてはならないとか、被控訴人両名に対して異つた判決がなされたのでは訴訟の終局の目的が達せられないとかを理由として必要的共同訴訟と解する見解がないではないが、当裁判所は右のような見解に左祖しない。けだし、共同相続財産については共同相続人全員が訴訟の追行権を合有するというのは、共同相続人が原告側に立つて訴訟を追行する場合のことであつて、共同相続人を被告とする場合にまでも全員を相手にしなければならないとする必要はないと考えられるし、必要的共同訴訟における合一確定の必要は法律上のそれに限られ、論理上、実際上の必要までを包含するものではないと解するを相当とするからである。このように解することにより、論理上矛盾した判決が場合によりなされたり、またまちまちの判決がなされたために訴訟の目的を達し得られない場合が生ずることもあるが、このことは当事者処分主義、弁論主義をとる民事訴訟法の立前上当然の帰結であつて已むを得ないことである。

以上に説示したとおり本訴は共同訴訟人に合一確定しなければならない訴訟ではないから、共同訴訟人である被控訴人等の訴訟の追行はそれぞれ独立して互に無関係であるとしなければならない。

そこで、本案について判断する。

まず、被控訴人熊野に対する請求について、

本件建物がもと亡河原林太郎の所有であつたこと、同人が昭和二五年二月九日死亡したことは当事者間に争がない。

控訴人は「被控訴人等は林太郎の死亡による相続の結果右建物の所有権を承継取得したものであるが、右建物の一部が控訴人所有の米子市紺屋町五九番宅地二九坪九合四勺のうち東北一一尺西南七尺六寸五分の矩形部分(別紙図面の斜線部分)の地上に存立し、被控訴人等において右宅地部分を不法占拠している。」と主張するが、仮に控訴人主張のように本件建物の一部が控訴人所有の前記地上に存在するとしても、原審における検証の結果(第一回)、当審における証人清山庚一郎の証言によると、清山庚一郎が林太郎の生前である昭和二〇年一〇月頃同人から本件建物を買い受けてその所有権を取得し、それ以来ずつと清山において右建物を使用占有して来たことが認められる。右認定に反する証拠はない。そうだとすると、被控訴人等は前記土地の占有をしてきたことがないというべきである。

控訴人は、「被控訴人等は本件建物の売渡について登記を経由していないから土地の所有者である控訴人に対してこれを対抗できない。」と主張するが、本件で問題となつているのは、直接には本件建物の所有権移転の対抗力ではなく、被控訴人等が控訴人所有の土地を不法占有しているかどうかの点である。そうだとすると、控訴人所有地上に林太郎が何らの権限なしに本件建物を所有し、右土地を不法占有していたとしても、林太郎において右建物を清山に譲渡したときはその移転登記を了したと了しないとに拘らず、譲受人である清山において右土地を占有するものであるから、控訴人は右土地に建物を有しない譲渡人林太郎したがつて被控訴人熊野に対して建物の移転登記のないのを理由に土地の不法占有を前提とし、その収去および譲渡後の損害賠償を請求できないこと、従来の判例の示すとおりである。けだし、このように解しないで、地上建物の所有権移転の事実を登記がないことのために土地所有者に対抗し得ないものとすると、地上建物の所有者でない譲渡人が譲受人所有の建物を収去したり、土地の不法占有者として損害賠償義務を負担することとなる反面真実の建物の所有者である譲受人が前述の義務をまぬがれることとなつて結果が妥当ではないからである。これを要するに土地の所有者が地上の建物の所有者に対し土地の不法占有を理由に建物の収去、損害賠償の請求をするについては、土地の所有者は民法第一七七条にいわゆる第三者に該当しないということになるのである。そうだとすると、控訴人のこの点の主張は採用できないから控訴人の被控訴人熊野に対する請求部分は理由がないとしなければならない。

次に被控訴人正子に対する請求について、

被控訴人正子は事実の部に記載した事由から控訴人主張の請求原因事実を総て自白したものとみなされる。右の事実からすると、被控訴人正子は控訴人に対し本件建物のうち、米子市紺屋町五九番宅地二九坪九合四勺のうち東北一一尺西南七尺六寸五分の矩形部分の土地(別紙図面記載の斜線部分)上に存在する建物部分を収去し、右土地を明渡し且つ金二、六七〇円ならびに昭和三一年一二月一日から右土地明渡済に至るまで一ケ月金五七円の割合による地代相当の損害金の支払義務がある。

よつて、被控訴人正子に対する本件控訴は理由があるから原判決中控訴人の同被控訴人に対する請求を棄却した部分を取り消し、控訴人のこの部分の請求を認容し、被控訴人熊野に対する本件控訴は理由がないから棄却することとし、被控訴人正子の訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九六条、被控訴人熊野の訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中島孝信 吉田武夫 大下倉保四朗)

図〈省略〉

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